自然な部屋
部屋というのは片付かないもので、例えば漫画などで描かれている「キタナイ部屋」は十分キレイだと思う(または画家の手抜きである)。キレイな部屋を持つ人間は、何かしら魔法を使っているとしか思えない。魔法でなかったら金を使って毎日清掃業者を呼んでいるか、散らかったものは須く躊躇いなく捨てているか、部屋ごと取り替えているかのいずれかであろう。
とはいえ、俺自身の人生の中で、唯一部屋が嘘のようにキレイになったことがある。時期でいえば大学三年の秋で、魔法や金や人脈を使ったのではなく、今思えばどうしてキレイになったのか分からない(記憶操作されているかも知れない)。俺は基本的に持ち物が人一倍多い。応用的に考えてもどうしても多い。
大学のときに住んでいたアパートは七畳半であるが、(出身大学指定アパートはこの広さが多かった)、ベッドやコタツ机の他に、漫画とパソコン用の机、テレビのキャビネット(不必要に長いやつ)、加えてギター三本、ベース、ウッドベース、キーボード、スネアドラム、ウッドボンゴ、そして思い出せないがまだ細かい楽器があったと思う(ハーモニカ、タンバリン、俺など)。そういえばリスも二匹飼い殺しにしていた。これだけでも多いのに、さらに単行本がざっと見積もって500冊はくだらなかったと思う。ついでに言えば多分単行本の内容もくだらない(このオチすらくだらない)。これだけあったら、例え七畳半の部屋に押し入れがあって、更に屋根裏部屋があってもまだ足りない。事実、住んでいた部屋には押し入れも、更に屋根裏部屋もあったが十分に活用しきれず、足りなかった。当然、通常ものが置く予定のないスペースに、ものが散乱する結果になる。
だが何故か、この部屋がキレイになった。先にも書いたが、未だその原因は解明されていない。ひょっとすると、いくつかのものが時空を超えたのかもしれない。いや、そうに違いない。ともかく、このキレイな状態が二週間か一ヶ月程続いた(一ヶ月と思っておきたい)。この期間中は、あまりにキレイな部屋が嬉しく、よく友達を呼んだ。それまででは呼びもしないのに溜まり場になっていたのだ。
だがその後部屋が一度散らかると、卒業して俺が出て行くまで、一度としてキレイにはならなかった。引越しした後でも汚かったかもしれない。キレイになった時期に時空を超えたものが、汚くなった時期に落ちてきたと考えれば辻褄が合う。要するに、キレイになっていた時期には飽和状態直前の持ち物だったのが、ちょっと汚くなった隙に時空超えしたものがやってくれば、飽和状態に陥り、物が溢れ、結果として部屋が散らかったということであろう。
証拠に、大学を出た後に移った住まいでは、引越し初日から部屋が散らかっていた。すでに飽和状態だったようだ。ちなみにその部屋へ移ってから、一度としてキレイという状態にはなっていないと思うが、それはあくまで偏見で、俺の部屋と思えばキレイな時期もあったはずだ。
ところが冒頭でも言った通り、部屋というのは片付かないものなのだ。片付いた部屋などモデルハウスのような生活感のないところ以外ではあり得ない。そもそも物理学でいうところのエントロピーは増大する法則にあり、人間心理学によると、そのエントロピーが大きいほど人は落ち着くそうだ。つまり部屋がキタナイということは、エントロピーは自然な状態にあると言える。
キレイな部屋は不自然なのである。そして俺はナチュラリストである(自称)。
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